[第20回]絵本学会大会・報告
[第2日目]5月4日(木)
ラウンドテーブルC 絵本の研究と教育 その現状と未来
話題提供者:石井光恵(日本女子大学)
中川素子(文教大学名誉教授)
宮崎詞美(横浜美術大学)
コーディネーター:生田美秋(高志の国文学館)
絵本学会設立20周年記念となる本大会では、絵本学会のこれまでの歩みを振り返り、現状を整理し、今後の課題と展望を明確にすることが求められている。ラウンドテーブルCでは、絵本の研究と教育をテーマに、三名の話題提供者の発言をもとに“課題を明確にする”ことを目標に意見交換を行う。
今回のラウンドテーブルでは、絵本の研究と教育について、一人の研究者として研究と教育にどう関わるかの視点とあわせて、絵本学会に何が求められているのか、絵本学会としての課題は何かの視点を念頭に置きながら、以下の項目にそった進行を予定している。
(1) 絵本の研究 その現在と未来
・絵本学会の研究に関する成果―「絵本学」へのさまざまなジャンルからアプローチ、「絵本フォーラム」(太田大八)の発想の継承など。
・絵本学会の研究に関する課題―研究発表の場の確保、研究支援・助成、顕彰制度、絵本研究と絵本現場の循環、海外や他ジャンルの絵本と絵本研究の成果の紹介など絵本研究の発展のために、いま絵本学会にできること、すべきこと。
・絵本研究の課題はなにか。各領域(絵本史研究、作品論、作家論、絵本の創作など)、研究手法、基礎研究と応用研究、個人研究と共同研究、テキストなどの課題
(2) 絵本の教育 その現状と未来
・絵本学会の教育に関する成果―絵本の教育(大学・大学院生、絵本作家、保育士など)はどのように行われているか
・絵本学会の教育に関する課題―絵本研究者、絵本に関わる人(絵本編集者、保育士、絵本担当司書、絵本ボランティアなど)を育てるために、いま絵本学会にできること、すべきこと
・絵本教育の課題はなにか。各領域(大学院生・研究者養成、作家養成、保育士養成、絵本ボランティアなど)の課題、教育手法の課題など
絵本の研究と教育について、絵本学会のこれまでの歩みを振り返り、現状を整理し、今後の課題と展望を明らかにすることが本ラウンドテーブルの開催趣旨である。
「研究―その現在と未来」について、中川氏は、視覚表現の視点から研究をはじめ、絵本学会設立を呼びかけ、現在は若い人の力を引き出す企画者兼編集者としての活動に意欲的に取り組んでいると報告した。石井氏は、学会が研究情報を提供する意義について強調し、本格的な研究者の刊行が待たれると主張した。宮崎氏は、学生時代に学会に入会し、計13回に作品発表を行ってきた。絵本をつくるプロセスを公開するというやり方を続けてきたのは、「作ることは研究として成り立つのか」という、問いかけであったと述べた。報告のあと、アートの立場と児童文学や保育の立場の研究者のさらなる交流や、児童文学、マンガ、アニメーションなどの隣接分野との学際的な研究交流の意義について意見交換が行われた。
「教育―その現在と未来」では、石井氏が近年絵本を体系的に学びたいというニーズが高まっていると述べた。宮崎氏は、イラストレーションコースで「絵本制作」を行い、絵本の制作実習に加えて、絵本の構造や歴史を知ることにより、生徒が自分の「絵本論」を持つよう指導していると報告した。中川氏は、絵本を狭い領域で考えるのではなく、複眼の思考で見ることの必要性を強調した。生田は、美術・デザイン系と児童文学・保育系の大学院で学ぶ学生を対象に、学会主催の絵本研究セミナー開催の意義について問題提起を行った。会場からは、デジタル絵本をどうとらえるかにについての問題提起があり、学会として本格的に取り組むべき課題であることが確認された。