絵本学会

[第20回]絵本学会大会・報告

 ラウンドテーブル報告

[第2日目]5月4日(木)


 14:50~16:20 7号館7201教室


ラウンドテーブルA 3学会連携  絵本から幼年童話へ
 
話題提供者:佐々木由美子(東京未来大学) 日本児童文学学会
      竹内美紀(東洋大学) 日本イギリス児童文学会
兼コーディネーター 藤本朝巳(フェリス女学院大学)日本イギリス児童文学会
          長野麻子(東京成徳大学)絵本学会
          長野ヒデ子(絵本作家)絵本学会
 
(このRTは日本児童文学学会、日本イギリス児童文学会、絵本学会が連携して実施したものです。これらの学会は、子ども向けの文学や作品の研究をしていますが、これから互いに、さまざまな面で協力をしていきたいと願っています。そのために、2015年に、連携の第一歩として、日本児童文学学会が主催し、大阪教育大学で第1回目のシンポジウムを開催されました。その時のテーマは「児童文学研究のこれからを考える」でした。)


はじめに、司会者から「幼年童話」はこれまで研究対象として論じられることが少なく、それゆえ、これから日本でも力を入れて研究すべき分野であることを述べ、まずは「幼年童話」の定義から始め、幼年童話が絵本から物語読書への橋渡しとして重要な位置にあることを述べました。
佐々木さんは「日本の幼年童話の現状」を知るために、「幼年童話」が明治期の誕生当初から、親しい大人に読んでもらって受容するという「聞く文学」としての要素について説明し、次に、幼い子どもが初めて一人で読むという「読む文学」としての要素を併せ持ち、この二つの要素がときに「幼年童話」と「幼児童話」といった形で分裂しながら共存してきた成り立ちを振り返ってくださいました。続いて、研究・評論の難しさや、60年代から現代にいたる幼年童話の変遷や現状について考察されました。加えて、現代の傾向として、絵や吹き出し等を多用し、言葉で物語世界を紡ぐのとは別の原理から作られた作品も増えていることを紹介し、幼年童話が絵本から児童文学へとつなぐ機能を果たすことができるのかということについて、一緒に考える材料を提示してくださいました。
竹内さんは幼年童話を「聞く文体から読む文体へ」というテーマで、石井桃子の翻訳を例に論点をまとめてくださいました。具体的にはアリソン・アトリーの幼年童話の2作品を取り上げ、読みやすく聞きやすいための省略、聞いて楽しいオノマトペ、昔話の法則に則ったくり返しなどの翻訳の工夫の数々を明らかにされました。次に、「岩波の子どもの本」シリーズの出版の経緯や、ゾウマーク・カンガルーマークの説明をして、幼年童話が歴史的にどのように位置づけされてきたかについて言及されました。さらには、岩波書店編集部で、幼年童話は分量ではなく、内容で選択されるべきとされていたことを報告されました。最後に、石井ら先人たちの精神を現代の翻訳に活かした例として、竹内さん訳の『スレーテッド』を紹介されました。
 藤本は長年の翻訳者としての経験をもとに、英国の昔話の語りの文体と幼年童話の例などをあげ、「伝承の聞く(語りの)文体」と「読む再話文体」の類似点と相違点をあげてみました。例として、英国のJoseph Jacobs の再話文体を用いました。Jacobs は「三匹の子豚」や「ジャックと豆のつる」など、すぐれた再話を残しました。彼が原話を再話した理由はさまざまありますが、その最も重要なポイントは、子どもの耳を意識して「読みやすく」「語りやすい」文体にしたということでした。当日は、元の文と再話文の一部を提示して、そのリズミカルな文体について説明しました。また、挿絵についても短く言及しました。
長野ヒデ子さんは「作り手の立場」として、長年の経験や豊かな知識からイラストレーションを子どもたちがどんなに楽しむか、実感のこもった言葉を語ってくださいました。「幼年童話の定義は私よくわかりませんが、絵本は絵も文も一体となり、文字も絵の一部であり、絵も絵を読み、共に読み説くものです。幼年童話は物語が主で絵はそれを引き立てるものとして扱われているものを指すようです。よく似たのに絵付き絵本があり、絵本の形はしていても物語が主で絵は添え物のようにいわれますが、絵は添え物ではありません。幼年童話の絵はいかに読者に作品の奥深さを伝えるかが絵にかかっています。挿絵は物語の登場人物を絵の力あってこそ、その物語を引き付ける力、引っ張っていく力が出るのです。そして絵は物語の原稿に書かれていない部分を、目に見えない部分を描いてあるからこそ、さらに作品を高めるのです。ただ文章になぞって描いたものはその力がありません。だから、幼年童話の絵の力がいかに大事かが問われます。ミルンのプ―さんはそのよい例です。だから絵は絵本の絵を読み解く力が、絵本から幼年童話に引きこむ力となると思うのです」。(長野ヒデ子)
長野麻子さんは作家としての立場、教育の現場で教える立場、子育て中の母親としての立場から、幼年童話の言葉の魅力と声に出して読み聞かせることの魅力について語ってくださいました。そして、幼年童話が、実際にどのように用いられ、楽しまれているかを紹介されました。長野麻子さんは4歳の長女に絵本の読み聞かせや昔話の語り聞かせを毎晩行う中で、再び幼年童話の魅力に気づいたと述べられました。すなわち幼年童話は一人で黙読するものという印象があるが、声に出して読み聞かせることで、さらに文章や物語の魅力が引き出されるのです。例えば、「長女の好きな『モチモチの木』や『八郎』は長文の絵本だが、斎藤隆介の文章の力が非常に大きく、幼児でも読み聞かせに集中しやすい。特に『八郎』の秋田弁など抑揚をつけて、感情を込めて語られることで、より深いものが伝わるように思える」と説かれました。「幼年童話では絵本版のあるリンドグレーンの『ロッタちゃん』や『長くつ下のピッピ』のシリーズなどが幼児の興味を惹きやすく、・・・長女は山室訳のロッタちゃんが自分を「あたい」と称していることに共感している」また呼吸や声、音と言葉の関係から絵本を制作し、幼児教育の現場を知る麻子さんにとって、「言葉を声に出し、言葉に内在するリズムや感情を感じることは重要で、幼年童話の読み聞かせをすることで、物語がいっそう生きたものとして立ち上がることを実感している」と語ってくださいました。
お二人の、それぞれ作家の側からの発表は会場を和ませ、楽しい会として発表を終えることができました。その後、3学会の方々からの活発な質疑応答もあり、今回のラウンドテーブルが、3学会連携の橋渡しとなりますことを願って、会を終了しました。

(報告は藤本朝巳)

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