絵本学会

[第20回]絵本学会大会・報告

作品発表報告

[第2日目]5月4日(木)


124014:40  作品発表  7号館7203教室
        座長 澤田精一・村上康成

①お花だいすき
加賀美裕子(東京展事務局員、東京展「絵本の部屋」代表
練馬区立図書館ボランティアサークル「ひよこ」代表)
<作品概要>
グループホーム入所者6名による共同作品です。練馬区立大泉図書館所蔵の布絵本を繰り返し、触れて楽しんでいるうちに、自分たちも作ってみたいという意欲が目覚めた。ボランティアの人の手助けを借りながら、一年がかりで作った布絵本。老人性痴呆症を患ってはいても、裁縫技術、センスは抜群、時間のたつのも忘れて笑顔で針を運んでいます。手作り絵本の新しい可能性を紹介します。
 
②幸福の王冠
川本みつこ(イラストレーター)
<作品概要>
三歳の誕生日を迎えた愛子ちゃんは、 お母さんと散歩に行く途中、蝶に誘われ、 異次元空間に入り込みます。そこで、蝶の妖精から「幸福になる」 と決めた全ての人間に授けられる王冠を授かります。「この世に産まれてきた全ての人間は幸せにあるために産まれてきた」というメッセージを込めて作った絵本です。震災が起こり、景気が低迷する中、今の世の中に必要なのは、幸福を象徴する「黄色」の色なのではないかと思います。温かい黄色の絵本を皆さんに見ていただき、絵本を見ていただくことで、心の中に黄色(=「幸せの色」)の色を、この世に産まれてきた全ての人に届けたいです。
 
③きみ だぁれ?
木戸まや(梅花女子大学大学院 文学研究科 児童文学専攻)
<作品概要>
昨年発表させていただいた『イヌのクニャン』の第2作目です。クニャンがケッペルさんの家にはじめて来た日、ケッペルさんの家ではどういうことが起こっていたのでしょうか?クニャンとバウ、ガウ、キャン、4匹の出会いの物語です。初めて出会うクニャンに、興味深々の3匹。クニャンのすることを真似してみますが、3匹にはうまくできないようです。これから仲良く一緒に暮らしていけるのでしょうか?
 
④さくらのおひめさま
手良村昭子(滋賀短期大学 幼児教育保育学科 教授)
<作品概要>
さくらの季節にうまれたさくらひめ、王様は姫が美しく育つように、そして、その美しさが永遠に続くことを望みました。ある日、王様は森の魔女と契約を交わします。魔女がかけたのは、いつまでも美しく変わらないままでいられる魔法。姫は王様が望んだとおり、美しく育ちました。そして、庭の桜も散ることなくずっときれいに咲き続けました。変化のない生活の中で姫の心はいつしか空っぽになっていきました。桜の花が美しいのは、散っていくからです。失ったもの、生まれてくるものその繰り返しの中で流れていく自然の世界をテーマに今回の絵本を作りました。

⑤ カブくんの花
東山直美
<作品概要>
「カブくんの花」の物語は孫のカブトムシが死んで墓を作った顛末記だ。ほとんど事実の通りである。私は物語をつくることが苦手だ。物語には、意外性、伏線、謎を一つ残すということが肝要であると聞いたことがある。また事実は小説より奇なりとも云われているが、はたしてこの絵本の物語はどうだろうか。読者を少しでも引きつけるものになっておれば幸いである。
 
⑥ HAMABI ピクチャーブックライブラリー
宮崎詞美(横浜美術大学 ビジュアルデザイン領域イラストレーション研究室 准教授)
<作品概要>
横浜美術大学イラストレーションコースでは、ビジュアルデザインの1分野であるイラストレーションの可能性を探る媒体として絵本の制作に取り組んでいます。企画、イラストレーション制作、エディトリアルデザイン、造本まで全て学生自身の手で行い、教育や社会へ還元することを目的に研究室でデータを整理し「HAMABI ピクチャーブックライブラリー」として保存しています。ライブリー構築の企画・活用と作品を発表します。
 
⑦ゆれるかがみ
三好伸子(甲南女子大学 講師)
<作品概要>
保育者たちは、皆すばらしい個性をもっている。しかし筆者は、業務に追われ個性を発揮しにくい保育者の姿や、保育者養成校で学ぶ学生たちが、就職後に自分の個性や、自己の学びへの意欲や夢を忘れがちになる姿に気付いた。保育者への自分の個性や夢を立ち止まって思いだし描き直してほしいという想いや、保育者の周囲の人たちへの、保育者一人ひとりのよさを見つめ直してほしいという願いを込めた。
(絵 三住知恵子 御堂筋本町ちどり保育園)
 
⑧ 10 yearsピンクダイヤモンド
村上祐喜子(手づくり絵本夢工房、絵本サロン主宰)
<作品概要>
10才の男の子に4番目の妹ができた。大人と子どもの真ん中で、だんだん少年になっていく時期。揺れる気持ちで母の出産に立ち会った。自分もこうして生まれてきたのだと、実感する。娘の4人目の出産を、10才の孫の視線で描きました。
 
⑨子どもたちの創作絵本
望月富美子(おおしま絵本クラブ会員)
<作品概要>
1歳から12歳までの子どもたちの絵本作りに携わって今年は5年目、子どもたちの絵本作りにたずさわっている理由は子どもの心にあるストーリーをどう引き出すかということと、もうひとつ、子どもと大人のコミニュケーションの場として、絵本作りはいい場所だったということです。そんなことを通してかけがいのない心の模様がお互いにできたと思っています。今、しずおか絵本クラブのことを紹介してみたいと思いました。
 
⑩しーっ
吉田久実(大阪芸術大学大学院)
<作品概要>
耳にした言葉から、子どもはどれだけ想像を広げているのだろう。
子どもが他人の言ったことや自分の聞き違いを、楽しんでいる姿を見るたびに思います。子どもにとっては言葉の聞き違いはそれ程の問題ではなく、ふと耳にした言葉や真剣に聞いた言葉から、沢山の想像をし、まじめに横道逸れた開放感を楽しんでいるようにも感じます。そんな時、物語世界を広げる事が出来る子どもたちの力はきっと、生きていく力につながると考えます。


絵本学会の絵本研究においては、先行論文を精査し新たな論述を展開していくという従来の研究の他に、実際に絵本を製作して内在的に絵本の理解を深めていくという二つの道があります。絵本学会での絵本の製作は、必ずしも作家を目指すものではありません。出品された作品もご自身の作品もあれば、子どもたちが描いたものもあり、様々な内容です。しかも、ここでは予選もなく提出されたすべての作品が対象です。ということで、座長の方からのコメントもその提出された方々の一人一人にむけられ、その場で終わるものでした。つまり瞬時でことは済んでいたのです。
これからのことを考えると、この作品発表は作品発表として続けていきながら、それとは別に数点の作品を選んで絵本として仕上げていく長い時間の過程のなかで、例えば一年間かけてのあれこれの努力の軌跡を披露することができれば、どのようにして絵本が生まれるのかがもう少し明快になるのではないでしょうか。(澤田精一)
 
昨年、座長の一人として、関わらせていただきましたが、一番の印象は、正直、多くの作品が作者の嗜好品として、作られていました。仮に自分の作品を多くの人に見てもらいたいという、絵本本来のポテンシャルに挑戦していただけるなら、具体的には、ダミー本をもっともっと作って、「絵本の何たるか」を見つけてほしいと思います。(村上康成)

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