絵本学会

[第15回]絵本学会大会

[日程]2012年6月2日(土)~3日(日)
[テーマ]絵本からはじまる.絵本からつながる
[会場]熊本県山鹿市「八千代座」
[基調講演]飯野和好脚本による文士劇と座談会
     「絵本が面白くってしょうがない(仮題)」
      主な出演者 飯野和好、ささめやゆき、長谷川義史、あべ弘士、長野ヒデ子 
[シンポジウム]主なパネラー 佐木隆三、黒田征太郎

大会報告

第15 回絵本学会大会実行委員長 長野ヒデ子
大会実行委員 大坪恵理子 勘角幸子 吉田寛子 石川和代 江藤直子 野口弘子 山崎寿雄
 
この度の八千代座大会では大会始まって以来の延800人を超える参加者、馴染みの絵本作家によるお芝居、ラウンドテーブルも、実に深く掘り下げた締めくくりの黒田征太郎、佐木隆三、福元満治のシンポジュームも、研究発表も作品発表も例年以上に力が入った空気を感じました。八千代座魔力のなせる技でしょうか。集客の力はなんと言っても、お笑いのように馬鹿ばかしいお芝居をあれほど真剣にやれる「てくてく座」飯野和好座長一同。内田麟太郎詩人の朗読、「わにわにが~」と山口マオ琵琶演奏、すべてにおいて絵本をさらに違う観点からとらえることを教えられ、考えさせられる大会でした。
ひとえにご支援ご協力頂きました山鹿市長をはじめ山鹿市民、地元で中心的役割を果たされた「風吹きカラス」とボランティアの皆様、学会会長はじめ会員の皆様のおかげです。     
たくさん嬉しい感想もいただきました。学会会員からの感想はとても良かったという感想が沢山ありました。例えば「大会が大成功で大きな喜びを感じている。『風吹きカラス』の皆さんのエネルギー、統率下、整然たる運営は感嘆に値する素晴らしいもの。参加者もボランティア数も大会始まって以来の記録と思われます。ボランティアの方々は催し物を見ることも叶わず、ご自分の職務を全うされておられ頭の下がる思いがしました。八千代座に積み重ねられてきた文化の重みが、皆様を突き動かしてきた源泉なのかもしれませんね」
「多様な会員が集まる絵本学会ならではの柔軟性や多様性が実感できた大会であった。テーマに掲げた「大衆性=娯楽性」という点では十分に醍醐味が発揮された大会であった。学会という高度な研究テーマを議論する専門家集団の場において会員の想に幅があるので娯楽的趣向を取り入れた大会もたまには歓迎されて良いと感じた。八千代座という歴史的建造物での開催場所として満足。
研究発表においては関心を引くテーマもあったが理論的裏付けに無理があるようなケースも見られ、数を縛りもう少し工夫改善があってもいいのでは。テーマ性のまとまりは乏しかったが黒田さん佐木さんのトークは感動的。人間の根源的な叫びを聞いた。絵本学会ならではのいろいろな大会があってよい」「今までにない素晴らしい大会だった。八千代座で研究発表できたこと生涯わすれない」「学会始まって以来の面白い、温かい大会で参加者もかってない多数の参加者で驚いた」「多方面の方に学会を知ってもらえるいい機会でよかった、ボランティアさんが素晴らしい」「学会は面白くないものと思っていたのに、このように面白い学会は初めて、よくやった」「参加者が喜んでくれるよういい大会にしたいと、いう気持ちがボランティアさんから伝わって温もりのある心のこもった大会、今後見習いたい」「八千代座が素晴らしい!こうゆうところでの学会も時々やってほしい」「山鹿の組織力と働きぶり評価する声がほとんど、もう一度太田さんの提唱された初心に帰って活動しよう、研究だけが目的ではない」「八千代座の長い、長い時間と人々の悲喜交々といっしょの空間は大衆の力が輝いていた」などなど。でも厳しいご指摘もありました。
「参加者の多さは学会始まって以来、事故がなくてよかった。お芝居はつまらなかった」「中身がないお笑いでしかないお芝居を見させられ、これは学会ではない。考えるべきだ」「学会は研究の場、作品発表ももっとじっくり聴きたかった、資料部数が足りなかった」でも一般参加者のアンケート感想のほとんどは「てくてく座が面白かった」「参加できてよかった」と「絵本学会にまた参加したい」と絶賛した感想ばかりでした。例えば「絵本学会というのを知らなかった、今後も参加したい、いろいろな人と交流ができた」「素晴らしい学会。こんな面白くて勉強になる学会なら次回も楽しみにぜひ参加したい」「絵本作家の素顔が見られて作品にますます興味がわいた」「研究発表も熱があって勉強になった。私たちの街でもやりたい。やるには条件があるの?」「こんなに笑ったことはない。本当に面白かった。元気が出た」そして山鹿については「いい温泉、いいお湯また家族と行きたい」とお褒めをいただきましたが当たり外れもあったようで、「温泉や土地柄はとても気に入ったが料理が最悪、美味しくなかった、高かった」と厳しいご意見もあり観光協会は「これを機会に本腰を入れて考えたい」といわれ、いろいろ刺激になったようで大事に見守ってゆきたいですね。
研究発表と作品発表についての感想は正置友子さんの発表に対する評価が一番多く、「聞けてよかった」という感想が多く寄せられていました。また医師による病状と作品の関係を医師の目で追われた異色の研究発表もありました。ラウンドテーブルも大変白熱した様子でいつもと空気が違うという声ばかり。これも八千代座マジックなのでしょうか。
 
 

 
その大会に至るまでのご報告も申し上げたいと思います。私は学会の理事をさせていただきましたが無知が故に申し訳ない事ばかりでした。他の理事の方は長年理事に携わられている研究者、大学の教授の方々のベテランばかり。私は場違いで戸惑いばかりでございました。と申しますのが絵本だから「学」でなく「楽」の絵本楽会。絵本に関わるいろいろな立場の人が、発言し研究してゆく会だと創設当時、設立者の太田大八さんから伺っていたのですが、理事になってみて「楽」でなく学術研究の学会だと言うことを思い知りました。そのことはとても大事と思うのですが、絵本というメデアで大人から子どもまであらゆる層の人々がつながるもの、だから時々は皆が交じり合って、ぐちゃぐちゃとあらゆる分野の人と人が触れ合うことも大事なのに、その場が少ないのではないかと思ったのです。特に現場で絵本を子どもたちに手渡している方たちも参加でき、大事なのは専門家ばかりでなく普通の生活者の中から絵本を見る目をもつ、一般人の方と同じ土俵で互いに学ぶ様々な型の大会もあってもいいのではないかと。絵本だからこそこの「一般人」の底力に学ぶべきものが多いと思うのです。そういう様々な大会も時々やれたらいいなあと。
唐津大会、岡谷大会と大学以外の場所での大会もこれまでにありました。でも最近は会場が大学ばかり。大学で学会が開かれることの利点もいっぱいあります。でも一般人は学術会議なのだと敷居が高く尻込みするところもあり、もっとザックバランに大学を離れた別の会場でするのも、たまには新しい刺激を生むことだろうし、小難しいことは抜きにして大学とは違う場所もたまにはいいのではと、熊本山鹿市の国の重要文化財の芝居小屋「八千代座」で学会をと提案いたしたのです。
理由は九州でしばらく大会が開かれてない。山鹿市には文庫活動から始まった「風吹きカラス」が実にいい活動をしている。深い交流があるので頼める。さらに周りには「熊本子どもの本研究会」、「子育支援ワーカー・ぺぺぺぺラン」、「ピピン」グループ等の活動も目を見張るものがあり応援団はバッチリ頼めると心積もりがありました。
しかも九州には親しくしている石風社の福元編集者、黒田征太郎、佐木隆三直木賞作家が今一番気になる絵本を出しているし、横山眞佐子さんならどんな大物でも猛獣使いのごとく大事なものを引き出してくださる力がある。シンポジュウムはこの方々がいる。{その結果、この滅多に聞けない組み合わせは絵本学会ならこそと絶賛される方ばかりでした。}
100年の歴史を持つ八千代座を中心にした温泉町で街の佇まいも風情もあるところでの大会は大きな意味があり、図書館がない山鹿市の図書館活動のきっかけにもなると。
嬉しいことに理事の皆さんはこの提案の八千代座には大変興味持ってくださいましたが、「地元に大学も学会員も専門家もいないところでやるのは並大抵で難しいのでは?学会から出せる資金は30万。これで会場を無料で貸してくれところが無ければ絶対無理」等いろいろ難題が挙げられましたが何としても今回は八千代座でやることに意味があると力説し、意気込みで乗り越え、理事会も八千代座に仮決定してくれましたが難題が山のようにありました。
 

 
大学も会員も全く無い地方で大会を開くということがどのようなことであるか今後の参考になるかとおもい経過を上げてみますと。
「風吹きカラス」のメンバーの活躍が地方であるがため知られてないので「素人集団で本当にできるのか?」と不安がられました。
事務局は協力するが、他の理事は皆忙しく遠すぎる。理事で実行委員ができるのは言い出しっぺの長野一人。頼りない長野1人と全て素人集団とでやれるのか。八千代座を無料で借りられるか、または使用料を払わずにすむ方法を見つけられるか?というような難題もいっぱいあり、こんなことに一番似つかわしくない私が実行委員長をやるのでは、理事会の不安と心配も並大抵でなかったかと思いますから当然です。
でも「八千代座で!」と山鹿の皆さんも「やる!」と引き受けてくれ、大会成功に向けて勤めている仕事もやめ、取り組むという「風吹きカラス」代表の大坪さん達7名。メンバーには市の職員の山崎寿雄さんもいて心強く、皆で成功させようと誓い合いました。
そこで八千代座の会場を無料で借りるため山鹿市に交渉。地元「風吹きカラス」の今までの実績が評価されて借り上げ料に当たる額を「助成金」で出してくださることになりました。山鹿市と山鹿市教育委員会は共催。しかし主催は絵本学会だけでなく、地元の「風吹きカラス」も主催であるというのが条件でした。地元の人が主催なら助成金は出せるが、地元でないところにはダメいうわけです。ところが理事会では「特定のところから助成金をいただいては、公平性がなくなる良くない」とのご指摘もあり「主催は絵本学会のみである」とのご意見。「岡谷大会の時は市長とイルフ童画館が主催では?」とお願いすると、「岡谷市とイルフ童画館は実体がよく知られているに対して、地方で活躍していても、読書会のグループとはちがう」との理事会の回答。助成金なしでは会場費は高いので大会は開けません。困りましたが理事会は「前例はないが今回に限り」と「風吹きカラス」も主催にいれてくださり助成金もいただけました。ほんとうに感謝です。
それから八千代座を絶賛しているが本当に大会がひらける場所であるか事務局長視察。打ち合わせに実行委員長が現地に行くにしても、地元のメンバーが上京するにしても開催地が遠いと交通費・宿泊費がかかるので大変です。地元「風吹きカラス」上京の1人分旅費は出していただけて助かりました。


 
事務局長の視察後「八千代座は素晴らしい会場。面白い大会が開けられる。問題点もあるがそれはなんとか解決できる」とお墨付きをいただき八千代座に正式決定。
芝居小屋にふさわしい大会にしたい。山鹿の皆さんと知り合ったのも絵本からなので、テーマは「絵本からはじまる 絵本からつながる」で八千代座ならメインは特別公演のお芝居で幕開けをと決めました。
10年前この八千代座で公演した絵本作家のメンバー「てくてく座」に相談。「学会にお金はない、旅費も宿泊料も謝礼もない手弁当。でも八千代座の舞台踏めるよ!絵本学会を盛り上げて!山鹿市に八千代座をいっぱいになるほど人を集めると約束したの。たすけて!」と頼みまわりました。座長の飯野和好さんはじめ誰もがなんと「山鹿は大好き、一肌脱ごう」と快く応じてくださりましたのです。
「やるからには楽しく!」とお芝居の練習が始まりましたが、最初は八千座の舞台が踏めるだろうかというほどのハラハラでした。でも、忙しいメンバーが時間をやりくりして集まり稽古が終われば飲み会、本当に仲良くなり心地よい交流が生まれました。さすが表現者、セリフも忘れたりしましたが、いざ舞台に立つとみごとオーラが出るからすごい。
稽古場所には出版社の会議室を渡り歩き編集者も巻き込みました。すると「絵本学会でお芝居を!驚き!学会も変わったのねえ、今まで学会には関心無かったけど参加します」と編集者。実際に福音館書店、岩崎書店、小学館、絵本館、ほるぷ出版、解放出版、集英社、小峰書店、偕成社、石風社など多数の編集者が参加くださりこんなことも今までなかったことでした。チラシもあちこちにまき「学会って面白いのね」と言われ、アフリカ、台湾、沖縄、沖縄の久米島、北海道からも参加者がありました。
また印刷屋、文字屋、製紙会社さんに医師も「絵本学会って何?」と参加されましたよ。
ラウンドテーブルも含め。芝居小屋での大会ということで「絵本の大衆性」「絵本の演劇性」「絵本の人権」「九州から送る風」と全体に意味のないような曖昧なテーマで開くことになりました。この曖昧さが、物足りなかったとの指摘もありましたが、今回参加して「絵本ではじまり 絵本でつながる」の1つでも見つけていただければと思いました。
でも「てくてく座」のお芝居にしても費用がかかります。資金が足りません、開催ギリギリにプログラムに「広告を載せ資金にしたい」と理事会に相談したところ「絵本学会は一度も広告を取ったことないが他の学会はとっている」と許可を得ましたが、「絵本を論議する上に置いて特定のところから広告をいただくと評論が公平でなくなる危険性もある、賛成できない」というご意見もあり他の方法を考えることにしました。それで絵本学会でなく「てくてく座」にご祝儀をいただくなら学会に迷惑をかけないで済む、これだと!
そこで幕間に垂れ幕広告1口1万円以上で募集することにました。このアイデアは大好評で絵本作家全員夜中まで描いて仕上げた64件の垂れ幕を花道から掲げて舞台を一回りしたのは圧巻でした。その貴重な絵入り垂れ幕はご祝儀いただいた全員にお届けし喜ばれ、「てくてく座」の資金になり本当に助かりました。おひねりもお芝居を盛り上げかなりの額が集まり全て「3・11東日本大震災災害義援金」にいたしました。
この垂れ幕の和紙は重要無形文化財備前名尾和紙、衣装提供は重要無形文化財久留米絣人間国宝の松枝玉記氏の久留米絣をお借りし地元から沢山のご支援をいただきました。
予想外は受付締切日に定員200名をオーバーする申し込みを受け「どうしよう!」と真っ青になりましたが「てくてく座」が急遽2回公演を快く引き受けて下さり切り抜けました。
波乱万丈でいろいろとありましたが八千代座魔力をいただいて大会を終えることができました。不十分なこと多々ありましたがそれにもかかわらず、ある絵本学会会員からユーモアと暖かいお気持ちの感謝状までもが届き一同歓声を上げました。
これからも絵本を通じて嬉しいつながりがもて、より良い研究と、いい作品が生まれ、良き手渡し手が生まれますように、絵本の底力を信じて絵本学会が更に素晴らしい学会になることと祈ってやみません。ありがとうございました。
そして東京でも、と「てくてく座」は9月29日新宿紀伊国屋サザンシアターで公演。入場料金の全ては東日本大災害被災地の子ども読書活動支援にいたしました。
絵本作家のお芝居なんて、こんなこと2度とないと思いましたが2度目があったのです。山鹿ではお芝居も見ず大会にご尽力くださった「風吹きカラス」をご招待し皆で打ち上げも致しました。
これもひとえに絵本学会があったからこそ。面白かったです。感謝です。