絵本学会

[第12回]絵本学会大会

[日程]2009年6月27日・28日
[テーマ]絵本と子育て支援
[会場]京都女子大学(京都市東山区)
[基調講演]「絵本で楽しむいのちのリレー」長谷川 義史
      「子どものこころをはぐくむ・いのちをつなぐ」柳田 邦男

大会報告

第12回絵本学会大会実行委員長 棚橋美代子
 

2009 年6 月27 日( 土)・28 日( 日) の2 日間にわたって、第12 回絵本学会大会が京都女子大学(京都市東山区)で開催されました。
実行委員は、田中泰子・齋藤壽始子・舟橋斉・丸田まゆみ・棚橋美代子・川北典子・佐藤文郎・矢野真の8 名。運営委員は、内山三枝子・加藤道子・山田千都留・松崎行代・浜崎由紀・蓮岡修・向平知絵の7 名です。2 名の会員以外は入会と同時に委員となった「若い」メンバーで大会の準備をさせていただきました。
会場は土曜も授業が組み込まれており、参加者の皆様には当日変更も含めご迷惑をおかけいたしました。そして、私たちが何よりも心配いたしましたのは「新型インフルエンザ」による開催の危機です。会員の出席確認の際「職場で関西方面への出張は見合わせるようにいわれていて欠席です」という返事をいただくにつれ不安が増していきました。
結果的には1 日目・2日目各300 人もの方々が参加して下さり、ご協力に心から感謝いたしております。ありがとうございました。
今大会では「絵本と子育て支援」をテーマに、「いのち」の大切さをどのように表現し伝えていくのかを考えようとしました。講演の第1 日目は6 月27 日13 時15 分から長谷川義史氏の「絵本で楽しむいのちのリレー」でした。絵を描きウクレレを弾きながら、いきること・いのちの重みをユーモラスに演じて下さいました。2日目は6 月28 日11 時15 分から柳田邦男氏が「子どものこころをはぐくむ・いのちをつなぐ」と題して語ってくださいました。異質な講演形式・表現を通してテーマに迫っていただけ、多様な参加者の共感を得ました。
研究発表も2 日間に分けておこなわれました。今回は大会テーマに「絵本と子育て支援」とあるように、子育て支援の視点を取り入れた研究がいくつかみられました。「絵本」という領域が多様性をもつものであり、今後、社会情勢の中で「子育て支援」という視点が重要さを増すと共に研究も深化を遂げていかなければならないものだと改めて感じました。
作品発表では、会場が照明や展示壁面などの設備がない中での展示でした。しかし、発表者の方にもご理解いただき、机上での展示となりました。作品そのものの質もさることながら、発表形式においてもそれぞれ多様で作品を深く鑑賞することが出来ました。
大会2 日目の13 時30 分からラウンドテーブルが3 つに分かれて行われました。ラウンドテーブル1は「ハンディキャップ絵本の動態をめぐって」と題して、話題提供者に写真家であり絵本作家である星川ひろ子氏、てんやく絵本ふれあい文庫代表の岩田美津子氏においでいただきました。コーディネーターは大会実行委員の舟橋斉氏が務めました。このラウンドテーブル1 では、現在、絵本領域において「ハンディキャップ絵本」がどのような位置づけにあり、出版状況がどのような状態であるかを話題提供していただきました。星川氏は家族が「障害者」であり、岩田氏はご自身が視覚障害者でいらっしゃいます。「ハンディキャップ絵本」を広めていく中で、様々な障害に出会いながらも真摯に向き合い、「ハンディキャップ絵本」を普及してこられました。「ハンディキャップ絵本」のおかれている厳しい現状をお伝えできたのではないかと思います。
今回の参加者は現場で「障害者」と向き合っている方が多くおられたのか、現場における絵本の扱い方についての質問に偏り、ハンディキャップ絵本の現状や今後の展望を話し合うまでには至りませんでした。しかし、話題提供されたことで「ハンディキャップ絵本」のあり方について考える第一歩となりました。
ラウンドテーブル2は「ロシアの絵本作家たち」でした。話題提供者に偕成社編集者の千葉美香氏、名古屋大学講師の山崎タチアナ氏、子どもの本研究家の伊藤元雄氏、コーディネーターは大会実行委員であり、「カスチョールの会」主宰の田中泰子氏が務めました。ロシア絵本は邦訳されているものが少なく、日本人に馴染みの
作品は限られています。しかし、今回、絵本学会大会と京都女子大学図書館共催で「カスチョールの会」のご協力のもと、絵本展「ロシアの絵本の原画」も京都女子大学学園見学記念館錦華殿で同時開催させていただくことができました。参加者の皆様方にも多くご観覧いただき楽しんでいただけたのではないかと思っております。「カスチョールの会」の方々にはこのような貴重な機会を与えてくださったことに深く感謝いたします。
ラウンドテーブル2は「ロシアの絵本作家たち」でした。話題提供者に偕成社編集者の千葉美香氏、名古屋大学講師の山崎タチアナ氏、子どもの本研究家の伊藤元雄氏、コーディネーターは大会実行委員であり、「カスチョールの会」主宰の田中泰子氏が務めました。ロシア絵本は邦訳されているものが少なく、日本人に馴染みの作品は限られています。しかし、今回、絵本学会大会と京都女子大学図書館共催で「カスチョールの会」のご協力のもと、絵本展「ロシアの絵本の原画」も京都女子大学学園見学記念館錦華殿で同時開催させていただくことができました。参加者の皆様方にも多くご観覧いただき楽しんでいただけたのではないかと思っております。「カスチョールの会」の方々にはこのような貴重な機会を与えてくださったことに深く感謝いたします。
山崎タチアナ氏は、ご自身の幼少のころお母さんにウクライナ語、ロシア語、ポーランド語などで昔話、童謡をたくさん聞いて育ったことをお話してくださいました。ロシアは口承文芸(フォークロア)の宝庫であり、その中でお育ちになられたことを熱く語ってくださいました。千葉美香氏はロシアの絵本を編集するにあたってご苦労なされたことやロシアの絵本作家の作品に対するこだわりが質の高さを物語っていることもお話してくださいました。伊藤元雄氏は現在もロシアの作品を編集されています。ロシア作品の編集の原点となっているのは、瀬田貞二さんと光吉三弥さんとご一緒に編集されたロシア昔話集「飛ぶ船」だと語ってくださいました。このとき約束したことは、原語から訳せる人に訳を頼むことと、現地の画家の挿絵を使うことを原則とされたそうです。マーヴリナとの仕事についてもお話してくださり、ロシアの絵本が身近に感じられました。また、ロシア絵本が伝えようとしているものを共有できたように思います。
ラウンドテーブル3では「絵本と子育て支援」と題し行われました。話題提供者は、実際、子育て支援の場で活動に取り組んでいらっしゃる京都嵯峨芸術大学で大会実行委員である佐藤文郎氏、京都YWCA 親子ライブラリー共同代表の平野富希氏、前・京都子育て支援総合センターこどもみらい館総務課情報担当係長の小川登志子氏にお願いし、コーディネーターは大会実行委員の齋藤壽始子が務めました。
3 人の方はそれぞれ、私立大学、NGO、自治体の三種の現場での体験をもとに、絵本と子育て支援の現状と問題点を①社会面 ②人材面 ③経済・財政面にわたって報告をいただきました。詳しい報告については後の稿を見ていただきたいと思いますが、「絵本と子育て支援」と一口にいっても多様なアプローチがあり、それをささえる学会の社会的な責任を考えさせられる討議内容でした。
今回の絵本学会大会に伴い、京都女子大学B校舎114 室・116室において「たんぽぽひろば」(子育て支援の場)を開設いたしました。対象は絵本学会大会の参加者親子、子ども、地域住民の親と子ども、近隣の放課後児童クラブの子ども達などでした。担当は京都女子大学発達教育学部の児童学科に在籍する4 回生と大学院生が企画し、児童文化研究会会員の亀井恵世氏、京都女子大学学生ボランティアの協力を得ました。内容は絵本学会開催時間の間、2 日間とも終日「工作コーナー」を開設しました。また、「絵本の読み語りと人形劇講演」を30 ~ 40 分の時間で2 ~ 4 回講演しました。絵本の読み語りでは、大会の講演会、ラウンドテーブル、絵本展の内容から「つながり」をテーマとし、それぞれの国や地域で受け継がれていく「民話」、家族・友情・同じ時代を生きる人など、人と人とのつながり(「ハンディキャップ」の有無を越えて)を描いた絵本を基本としました。参加者の方は、1 日目が子ども43 人、大人8 人、2 日目が子ども14 人、大人15 名とたくさんの方にご来場いただくことができました。
ラウンドテーブル終了後、15 時45 分から閉会式が行われ、2日間にわたる絵本学会大会を無事終了することができました。至ら
ない点は多々あったかとは思いますが、天候にも恵まれ、多くの方々のご協力により、滞りなく大会を終えることができましたことをここに深く感謝いたします。本当にありがとうございました。