[第20回]絵本学会大会・報告
[第2日目]5月4日(木)
9:30~10:00 研究発表Ⅱ-D 7号館7203教室
座長:永井雅子・前沢明枝
本発表では、『よるのかえりみち』(みやこしあきこ・作、偕成社)の韓国語訳をめぐるディスカッションにおいて、学生がどのような場面で絵の助けを借りているかについて検討した。絵本の翻訳ディスカッションでは、学生たちが共に絵を鑑賞しながらイメージを共有する姿がしばしば見られる。本事例で学生たちが絵に言及した箇所は22場面中9場面であった。絵本は、絵と文、2つの異なるテクストによって意味やメッセージを伝えている。ことばだけでは表せないイメージを絵が語っており、学生たちは絵の助けを借りて、アスペクトや語の追加・削除の可否、言い換え、オノマトペの選択などを判断し、相応しい訳語を検討していた。
絵本の文章は簡潔である。しかし、単にことばが短くて簡単だから語学学習の場で絵本を用いるのではない。簡潔に綴られたことばが、絵とともに語られる豊かな文脈(コンテクスト)のなかに生きているということが、学習者のことばの気づきを促すものと考える。
10:00~10:30 研究発表Ⅱ-D 7号館7203教室
2000年代に入って翻訳出版された掲題絵本を題材にした。この2冊を選んだ理由は、どちらも韓国原文テクスト(以下ST)に原作があるためである。『こいぬのうんち』に関しては1969年に書かれた同名の童話を書き下ろし、1996年チョン・スンガク氏の絵で絵本になった。『よじはん よじはん』に関しては、1940年のユン・ソクチュンによる童詩をそのままテクストにしてある。
まず、『こいぬのうんち』では特徴的な絵である枠(フレーム)の役割を論じ、『よじはん よじはん』では絵に何が描かれているかを描写した。それから絵と言葉の相互依存関係を探るために、STと翻訳テクスト(以下TT)を用いて、それぞれの文体・呼称・ジェンダーに焦点を当てた。その結果、STの絵と言葉の相互依存関係が『こいぬのうんち』と『よじはん よじはん』では異なることを示しつつ、言語圏を越えたTTでは新しい絵と言葉の相互依存関係が生じたことを、示した。
10:30~11:00 研究発表Ⅱ-D 7号館7203教室
本セッションでは、絵本翻訳関係が2件と絵本の英語教育への応用についての発表が行われた。小松麻美氏は、言語学習を目的とした絵本翻訳ディスカッションの事例から、学生が絵を鑑賞しイメージを共有して訳語を検討していることを明らかにし、協働での取り組みは「ことばの気づき」を促すとした。時代が求めるアクティブ・ラーニングの観点からも興味深い発表であった。尹惠貞氏は、日韓では事物の見方やコンテクストの読みが異なることを文体・呼称・ジェンダーで例証し、結果として絵とことばの相互依存関係にも影響を及ぼすことを指摘した。松本由美氏は、絵本が英語教育教材として有効であることを言語習得理論から論拠を示し、同時に絵本の質の担保にも問いかけ、英語絵本教育としての選定基準を考察した。いずれも時間切れの感があり、フロアからは詳しい説明を求める姿が見られた。また、韓国における絵本の出版状況や日本の絵本の受容状況についても関心が寄せられた。