[第14回]絵本学会大会
[日程]2011年6月11日・12日
[テーマ]絵解き・絵巻・曼荼羅と絵本
[会場]大正大学(東京都豊島区)
[講演]「曼荼羅の色と形~その意義を探る~」講師:小峰彌彦
[シンポジウム]「絵と語り」
パネラー:諸橋精光、昼間行雄
大会報告
第14 回絵本学会大会実行委員長 シャウマン ヴェルナー
大会実行委員 石井光恵 伊藤淑子 今田由香 甲斐聖子 永田桂子 森覚
第14回絵本学会大会は、2011年6月11日(土)、12日(日)の両日にわたり、東京豊島区にある大正大学を会場として開催された。大正大学は、1926年に創設された仏教連合大学である。本大会は、仏教系の大学を舞台とする絵本学会ということで、「絵解き・絵巻・曼荼羅と絵本」というテーマを掲げ、仏教絵本という多くの方には耳慣れないジャンルを扱った初の試みであった。上記テーマに因む講演1本、特別企画の実演1本、シンポジウム1本、ラウンドテーブル3本、研究発表15本(うち3本が仏教絵本関係)、絵本作品発表10本という構成となり、加えて、大正大学所蔵の国宝級を含む仏教美術作品の展示会が附属図書館に置いて並行して行われた。また「絵本ブックフェア」に、仏教関係の出版社が参加したことも含め、特色ある学会になったのではないかと自負している。
参加者は、会員が114名、一般参加者が133名、学生参加者が21名、大会サポートの学生スタッフが23名であった。学会開催にあたっては、関係学部の教職員・学生諸君はもとより、大学各方面から多大なご支援・ご協力を頂いたことに、実行委員長として心から感謝申し上げたい。
大会第1日目
開会式に続き、大正大学元学長で、現仏教学部教授小峰彌彦氏による「曼荼羅の色と形~その意義を探る~」という講演が行われた。小峰氏は初期大乗仏教・曼荼羅思想研究家である。曼荼羅とは、仏教の教理を言葉に拠らず色彩と形で伝えようとするものである。だが普通の日本人には馴染みの薄いものではあり、しかもそれが絵本とどう繋がるのか。一見、突飛で不可解に思えるテーマであったが、しかし逆にその故か、非常に多くの聴衆が集まり、分かり易い解説に熱心に耳を傾け、美しい画像に見入った。
続いての特別企画、新潟県長岡市の住職で画家の諸橋精光氏による、大型紙芝居の実演は、さらに多くの聴衆を集めた。氏は、布教活動の一環として、ここ十数年、大型の紙芝居制作と実演に力を入れている。会場では三つの作品が披露された。「小僧さんの地獄めぐり」は、江戸時代の地獄絵をベースに、日本人の心底に眠る地獄のイメージを用いて、畳一枚ほどの大きな画面に力強く描き出された、超大型紙芝居である。右手和子氏による朗読、新潟ひょうし木の会のメンバーによる太鼓やほら貝、木魚などによる演奏の応援も加わった上演の迫力に会場は圧倒された。二つ目、芥川の「くもの糸」も地獄のイメージが用いられた作品で、多くの絵本で知られると同時に、お寺で法話として語られることも多い。
それが諸橋氏による美しい大型の絵となり、紙芝居となって、絶妙なタイミングで目前の絵がさっと引き抜かれて次の画面が登場する形で物語が展開することによって、お話は絵本とは異なるダイナミズム、新たな命を獲得していた。三つ目の斎藤隆介作の「モチモチの木」は誰もが知る童話であり、滝平二郎による絵本が特に有名であるが、諸橋氏は敢えてこの絵本を見ずに、仏教的解釈も可能な話として独自の画面を作り上げている。これを見ることによって、絵本と紙芝居では表現の方法が異なることが一般参加者にもよく理解できたと思う。
以上、大正大学礼拝堂(「らいはいどう」)において行われた催しに続いては、三つの会場に分かれての研究発表会が開催され、A会場では理論的取り組み、B会場では実践的な試みについてそれぞれ熱心な議論がなされた。C会場では、例年通り、幼児教育に関わる会員による保育と絵本の関係についての発表と議論が行われた。
研究会終了後は、再び礼拝堂に会場を移して総会が行われ、続いて、8階の見晴らしの良い会場で「交流会」が行われたが、ここには、関東・東北大地震の被災地支援の意味を込めて東北のお酒が用意され、学会メンバーのほか、紙芝居上演者や、来年度の開催地紹介のために九州から上京された方々の参加も得て、賑やかに和やかに歓談がなされた。
大会第2日目
9時から2つの会場で作品発表会が開催された。大正大学は美術系の大学ではないため、設備面で不足もあったと思われるが、大方は満足して頂けたであろうことを希望する。続いて、2つの会場に分かれて研究発表会が行われ、A会場では仏教というテーマに様々な意味で関わる絵本研究が、 B会場では絵本読み聞かせの実践に関わる研究が発表された。
午後は「絵と語り」というテーマでシンポジウムが行われた。パネラーの一人は第1日目にもご登場願った、住職であり同時に絵本作家・絵本紙芝居作家である諸橋精光氏、もう一人は大学や児童館で制作の指導にあたる教師であり同時に映像作家である昼間行雄氏の二人。前者は画像を通じての仏教の布教を主たる制作動機とするのに対し、後者は芸術表現としてのフォルムを追及する立場であって、コーディネーターとしては、ひょっとして議論がかみ合わないのではないかと密かに心配していたが、そんな危惧は不要であった。両氏は立場の差を踏まえた上で、よく互いの話を理解し議論を交わしたため、聴衆にも絵本、紙芝居、アニメの共通点や差異が良く分かり、質問がいくつも出てよい議論になった。
三つのラウンドテーブルの一つ目は、横浜美術大学の宮崎詞美氏の司会のもと、京都造形芸術大学の佐藤博一氏と、美術系の大学ではない大正大学においてインストラクターという立場で教鞭をとる芸術家小林史子氏が、「大学教育の中の絵本づくり」というテーマで、そのあり方と意義について議論を試みた。二つ目は、絵本学会の恒常的なテーマと言ってよい絵本の編集をめぐっての議論で、梅光学院大学の村中李衣氏の司会のもと、共にフリーの編集者である細江幸世、澤田精一の両氏が語りあった。三つ目のラウンドテーブルでは再び仏教に関わるテーマが取り上げられ、絵本学会会長である文教大学教授中川素子氏がコーディネーターを務めた。絵本作家の小林敏也氏と近代文学研究家で都留大学名誉教授の関口安義氏が「宮沢賢治と芥川龍之介―絵本に見る祈りと影―」というテーマで講演と対談を行った。
ラウンドテーブル終了後、閉会式が行われ、中川会長の閉会宣言をもって、二日にわたる絵本学会を無事、終了した。大正大学も昨今は週末も大学校舎がさまざまに利用されているため、土曜日は授業が、日曜日は他の民間会社の試験などが並行して行われている状況であったので、大会運営への影響も心配されたが、関係者、特に大正大学の若い学生たちの協力によって、大きな問題もなくスムーズに会の運営が出来たことには、実行委員長として再度、心からの感謝を申し述べたい。もうひとつ、特別の感謝を捧げたいのは、諸橋氏が、氏の作品の中から、会議プログラムの背景画像を提供して下さったことである。会期中、アルバイト学生が着用しており、参加者の目にも大いに留まったに違いない黄色いTシャツの背中の閻魔大王の図柄も、諸橋氏のご好意による提供であったことを申し添えておきたい。
「ケチなシュヴァーベン人」ぶりが発揮された采配の結果、会計が黒字になったことを喜んでいる。残金は東日本大震災の義援金に充てることを提案したいと思う。
参加者は、会員が114名、一般参加者が133名、学生参加者が21名、大会サポートの学生スタッフが23名であった。学会開催にあたっては、関係学部の教職員・学生諸君はもとより、大学各方面から多大なご支援・ご協力を頂いたことに、実行委員長として心から感謝申し上げたい。
大会第1日目
開会式に続き、大正大学元学長で、現仏教学部教授小峰彌彦氏による「曼荼羅の色と形~その意義を探る~」という講演が行われた。小峰氏は初期大乗仏教・曼荼羅思想研究家である。曼荼羅とは、仏教の教理を言葉に拠らず色彩と形で伝えようとするものである。だが普通の日本人には馴染みの薄いものではあり、しかもそれが絵本とどう繋がるのか。一見、突飛で不可解に思えるテーマであったが、しかし逆にその故か、非常に多くの聴衆が集まり、分かり易い解説に熱心に耳を傾け、美しい画像に見入った。
続いての特別企画、新潟県長岡市の住職で画家の諸橋精光氏による、大型紙芝居の実演は、さらに多くの聴衆を集めた。氏は、布教活動の一環として、ここ十数年、大型の紙芝居制作と実演に力を入れている。会場では三つの作品が披露された。「小僧さんの地獄めぐり」は、江戸時代の地獄絵をベースに、日本人の心底に眠る地獄のイメージを用いて、畳一枚ほどの大きな画面に力強く描き出された、超大型紙芝居である。右手和子氏による朗読、新潟ひょうし木の会のメンバーによる太鼓やほら貝、木魚などによる演奏の応援も加わった上演の迫力に会場は圧倒された。二つ目、芥川の「くもの糸」も地獄のイメージが用いられた作品で、多くの絵本で知られると同時に、お寺で法話として語られることも多い。
それが諸橋氏による美しい大型の絵となり、紙芝居となって、絶妙なタイミングで目前の絵がさっと引き抜かれて次の画面が登場する形で物語が展開することによって、お話は絵本とは異なるダイナミズム、新たな命を獲得していた。三つ目の斎藤隆介作の「モチモチの木」は誰もが知る童話であり、滝平二郎による絵本が特に有名であるが、諸橋氏は敢えてこの絵本を見ずに、仏教的解釈も可能な話として独自の画面を作り上げている。これを見ることによって、絵本と紙芝居では表現の方法が異なることが一般参加者にもよく理解できたと思う。
以上、大正大学礼拝堂(「らいはいどう」)において行われた催しに続いては、三つの会場に分かれての研究発表会が開催され、A会場では理論的取り組み、B会場では実践的な試みについてそれぞれ熱心な議論がなされた。C会場では、例年通り、幼児教育に関わる会員による保育と絵本の関係についての発表と議論が行われた。
研究会終了後は、再び礼拝堂に会場を移して総会が行われ、続いて、8階の見晴らしの良い会場で「交流会」が行われたが、ここには、関東・東北大地震の被災地支援の意味を込めて東北のお酒が用意され、学会メンバーのほか、紙芝居上演者や、来年度の開催地紹介のために九州から上京された方々の参加も得て、賑やかに和やかに歓談がなされた。
大会第2日目
9時から2つの会場で作品発表会が開催された。大正大学は美術系の大学ではないため、設備面で不足もあったと思われるが、大方は満足して頂けたであろうことを希望する。続いて、2つの会場に分かれて研究発表会が行われ、A会場では仏教というテーマに様々な意味で関わる絵本研究が、 B会場では絵本読み聞かせの実践に関わる研究が発表された。
午後は「絵と語り」というテーマでシンポジウムが行われた。パネラーの一人は第1日目にもご登場願った、住職であり同時に絵本作家・絵本紙芝居作家である諸橋精光氏、もう一人は大学や児童館で制作の指導にあたる教師であり同時に映像作家である昼間行雄氏の二人。前者は画像を通じての仏教の布教を主たる制作動機とするのに対し、後者は芸術表現としてのフォルムを追及する立場であって、コーディネーターとしては、ひょっとして議論がかみ合わないのではないかと密かに心配していたが、そんな危惧は不要であった。両氏は立場の差を踏まえた上で、よく互いの話を理解し議論を交わしたため、聴衆にも絵本、紙芝居、アニメの共通点や差異が良く分かり、質問がいくつも出てよい議論になった。
三つのラウンドテーブルの一つ目は、横浜美術大学の宮崎詞美氏の司会のもと、京都造形芸術大学の佐藤博一氏と、美術系の大学ではない大正大学においてインストラクターという立場で教鞭をとる芸術家小林史子氏が、「大学教育の中の絵本づくり」というテーマで、そのあり方と意義について議論を試みた。二つ目は、絵本学会の恒常的なテーマと言ってよい絵本の編集をめぐっての議論で、梅光学院大学の村中李衣氏の司会のもと、共にフリーの編集者である細江幸世、澤田精一の両氏が語りあった。三つ目のラウンドテーブルでは再び仏教に関わるテーマが取り上げられ、絵本学会会長である文教大学教授中川素子氏がコーディネーターを務めた。絵本作家の小林敏也氏と近代文学研究家で都留大学名誉教授の関口安義氏が「宮沢賢治と芥川龍之介―絵本に見る祈りと影―」というテーマで講演と対談を行った。
ラウンドテーブル終了後、閉会式が行われ、中川会長の閉会宣言をもって、二日にわたる絵本学会を無事、終了した。大正大学も昨今は週末も大学校舎がさまざまに利用されているため、土曜日は授業が、日曜日は他の民間会社の試験などが並行して行われている状況であったので、大会運営への影響も心配されたが、関係者、特に大正大学の若い学生たちの協力によって、大きな問題もなくスムーズに会の運営が出来たことには、実行委員長として再度、心からの感謝を申し述べたい。もうひとつ、特別の感謝を捧げたいのは、諸橋氏が、氏の作品の中から、会議プログラムの背景画像を提供して下さったことである。会期中、アルバイト学生が着用しており、参加者の目にも大いに留まったに違いない黄色いTシャツの背中の閻魔大王の図柄も、諸橋氏のご好意による提供であったことを申し添えておきたい。
「ケチなシュヴァーベン人」ぶりが発揮された采配の結果、会計が黒字になったことを喜んでいる。残金は東日本大震災の義援金に充てることを提案したいと思う。
(シャウマン ヴェルナー)