[第17回]絵本学会大会
[日程]2014年5月31日(土)・6月1日(日)
[テーマ]絵本とアート-絵本のつくり手たち、その創造力
[会場]愛知県刈谷市総合文化センター
[講演]宇野亜喜良トーク
大会報告
第17回絵本学会大会実行委員長 鈴木直樹
大会実行委員 香曽我部秀幸 佐藤博一 鈴木穂波 中村僚志
早川浩史 磯部洋子 武藤幹二
絵本学会第17回大会は、愛知県刈谷市にある刈谷市総合文化センターにて、5月31日(土)・6月1日(日)に開催されました。会場は刈谷駅南口から延びるウイングデッキと直結しており、徒歩3分で到着する便利な立地にあります。会場近くに位置する刈谷市美術館では、「レオ・レオニ 絵本のしごと」展も開催されており、分科会2(ラウンドテーブル2)で取り上げられたレオ・レオニの絵本原画があわせて鑑賞できる絶好の機会となりました。
本大会では、理事会や会員の皆さまのご協力により、会員119名、一般107名、学生27名、合計253名の方にご参加いただ
き、充実した2日間の大会を無事に終えることができました。
メイン会場となった小ホールでは、開会式、宇野亜喜良氏トーク&ライブ・ペインティング、分科会1(ラウンドテーブル1)、閉会式が行われ、4階研修室と5階講座室が研究発表と分科会2、3(ラウンドテーブル2、3)の会場となりました。また、1階展示ギャラリーが作品発表の場となり、同ギャラリーで刈谷市美術館コレクションによる宇野亜喜良氏、瀬川康男氏の絵本原画も展示しました。
本大会のテーマと副題は昨年12月の理事会で「絵本とアート―絵本のつくり手たち、その創造力」に決まりました。絵本学会とともに主催となった刈谷市美術館では、企画展開催と密接に関連づけながら絵本原画を収集するなど、絵本を積極的に取り上げた美術館活動を行っています。今回の大会では、このような活動を展開する刈谷市美術館が関わることもあり、美術からのアプローチによって絵本作家の表現世界への理解を多角的に再考し、多くの方に絵本を深く楽しんでいただく場となることをねらいとしました。開催案内の告知やプログラムなどの印刷物には、理事会の承認を得て、刈谷市美術館がコレクションする宇野亜喜良氏の『母の友』表紙の原画を掲載することも決定しました。
大会第1日目の開会式では、まず初めに竹中良則刈谷市長から歓迎の辞が述べられ、続いて松本猛・絵本学会会長より大会実行委員会への謝辞と学会の現状報告、メインテーマ「絵本とアート」についての説明がありました。最後に鈴木直樹・大会実行委員長(刈谷市副市長)の紹介があり、開会式が終了しました。
続いて宇野亜喜良氏を招いてのトーク「メタモルフォーゼするイラストレーション」&ライブ・ペインティングが行われました。戦後、イラストレーターという言葉が広く一般に認識されていなかった時代にデビューした宇野氏は、イラストレーターとしての仕事を切り拓き、常に第一線で活躍を続けています。絵本制作も初期から手がけ続け、絵本学会創立のきっかけとなった雑誌『P ee Boo』で責任編集者を務めるなど、絵本のつくり手として積極的にその魅力を発信してきた方であり、本大会テーマ「絵本とアート」の現場を語っていただく上で相応しい方といえます。本大会の事務局である私の司会進行で宇野氏の絵本デビュー作の『どうぶつ えとおはなし』(1957年頃)から、近作である谷川俊太郎氏との初コラボ絵本『おおきなひとみ』(2013年)までの代表的な絵本を中心に、天井棧敷等の演劇ポスターなどのグラフィック作品も織り交ぜながら、宇野氏に自作を語っていただきました。トーク後は、華麗なサウスポーで絵が生み出される様子を参加者に体感していただく、ライブ・ペインティングが行われ、最後にキャンバスを回転させ、逆さ絵としても成立する「五月の詩」が完成しました。
終了後は、宇野氏に対して会場からの質疑応答が行われ、休憩後、小ホールで宇野氏のサイン会が開かれ、約90名の参加がありました。
本大会の研究発表には14件の応募があり、全件が採択され、3会場2日間に分かれて進行されました。今回の研究発表においては前大会と同様、研究の視点は、作家・作品研究、保育実践、児童文化、表現制作など、多岐に渡っており、絵本学という学問領域の多様性と拡張性があらわれた内容となりました。
第1日目夕刻の定期総会後は、場所を刈谷駅北口の刈谷市産業振興センターに移し、交流会が開催されました。招待も含めた参加者は101名であり、初日を終えた安堵感からか終始和やかな雰囲気の中、懇親が深まる会となりました。
第2日目は朝から研究発表(第2日目)が行われ、昼休憩を挟み、午後から作品制作者の口述による作品発表が行われました。前回同様、ギャラリー展示という状況を活用し、発表者は一定の時間内、展示作品の前で参加者と自由にディスカッションを行うギャラリートーク形式が取り入れられました。ギャラリートーク形式を継承したことで、今回もプログラムで割り当てられた発表時間(約2時間)を発表者全員で共有でき、発表者と参加者との距離も近く、意見交換が活発に行われ、会場から参加者があふれる程の盛況のうちに終了しました。
作品発表後、分科会(ラウンドテーブル)が3会場で同時に行われました。第1会場(小ホール)では「瀬川康男の絵本表現」をテーマに、戦後日本を代表する絵本作家である瀬川氏の盟友でともに絵本制作に取り組んだ辻村益朗氏、福音館書店の担当編集者であった川崎康男氏、瀬川展の担当学芸員であった私の3名が初期、中期、後期の画業をそれぞれ分担し、装幀家、編集者、学芸員という異なる立場から瀬川氏との関わりを発表しました。コーディネーターとなった広松由希子氏は、瀬川氏が残した言葉を紹介し、その言葉を手がかりにしながら絵本制作に取り組む作家の姿勢やその表現について意見が交わされました。第2会場(4階:401研修室・402研修室)は佐々木文夫氏と今井良朗氏が話題提供者、藤本朝巳氏がコーディネーターとなって、「レオ・レオニ 絵本のしごと」をテーマに、脳科学と発達心理学、造形やデザイン性、そしてデザインの視覚的な戦略と絵本の描き方との関係性というアプローチにより、レオニの絵本表現が探求されました。第3会場(5階:501講座室・502講座室・503講座室)では、読み聞かせ実践者である廣田真智子氏と西脇由利子氏、かがくいひろしの盟友である水島尚喜氏の3名が話題を提供し、鈴木穂波氏がコーディネーターとなって、「子どもと絵本をよみあう」をテーマとして、かがくいの絵本、それを受け止める子ども、介在する大人との関係をめぐって充実した議論が交わされました。
今回の第17回大会では、「絵本とアート」をもとに、絵本作家の表現世界に対して、編集者、研究者、実作者、美術館員らがそれぞれの立場で発言し、議論を深めることで、絵本の可能性とその未来を多角的に考える機会となりました。また、宇野氏のトークとライブ・ペインティングの開催告知が広く周知されたことに加え、開催会場の交通アクセスのよさが気軽な参加を促したようで、例年の大会と比較し一般の参加者が多く、多くの方に絵本を深く楽しんでいただき、活発に交流できる機会を実現できたと感じました。
分科会の終了後、最後のプログラムである閉会式が行われ、鈴木直樹・大会実行委員長(刈谷市副市長)より刈谷市における絵本を核としたまちづくり構想が提案され、松本猛・絵本学会会長より大会実行委員会への謝辞と次回大会への抱負が述べられました。次回、2015年の第18回は東京工芸大学で開催される予定であるため、陶山恵氏に飛び入りでご挨拶をしていただき、大会の全プログラムを終了しました。
今回の大会開催は、実行委員会の事務局を刈谷市美術館が務め、委員長・鈴木直樹をはじめ、鈴木穂波氏(岡崎女子短期大学准教授)、中村僚志氏(刈谷市教育研究会造形部長)、早川浩史氏(刈谷市総合文化センター館長)、磯部洋子氏(文化工房かりや代表)のほか、理事会から香曽我部秀幸理事(梅花女子大学教授)、佐藤博一理事(京都造形芸術大学教授)に加わっていただいた体制で運営にあたりました。刈谷市総合文化センターで活動するボランティアグループの文化工房かりやの方々には美術館スタッフが不慣れな小ホールでの案内等、細やかな配慮をしていただき、本当にお力添えをいただきました。また、刈谷と同じく絵本展を開催する近隣の高浜市やきものの里かわら美術館の安藤さおり氏、今泉岳大氏の両学芸員にはマンパワーに限界のある美術館スタッフでは対応できなかった研究発表の会場を担当していただき、心から感謝申し上げるとともに、近隣の美術館として今後ますます連携を深めていきたいと思います。最後に皆さま、本当にありがとうございました。