絵本学会

[第20回]絵本学会大会・報告

 ラウンドテーブル報告

[第2日目]5月4日(木)


 ラウンドテーブルB 絵本の創作 その現在と未来
 
話題提供者:澤田精一(絵本学会理事)
      はやしますみ(絵本作家)
      村上康成(絵本作家)
コーディネーター:和田直人(日本女子大学)


 ボローニャ国際児童図書展やブラチスラバ世界絵本原画展、日本絵本賞大賞など国内外で受賞を重ねてきた実力絵本作家の村上康成氏を迎え、これまでの絵本作品から数点をご紹介していただきます。村上氏の絵本創作に対するご自身のお考えを聞きながら、そこから絵本の現在について探っていきたいと思います。さらに村上氏が注目する若手絵本作家の一人、2012年に『とんとんとんだれですか』で絵本作家としてデビューした、はやしますみ氏からご自身の絵本をご紹介していただき、次世代の絵本作家の創作動向を手がかりとしながら、絵本創作の未来についても探っていくつもりです。
 元編集者の澤田精一氏のお話も交えながら、世代の異なるお二人の創作活動の考え方の相違点や同意点について探り、会場の皆さんと「絵本の創作 その現在と未来」について楽しく考えてみたいと思っています。(レジメより)


 実力絵本作家の村上康成氏、そして村上氏が注目する若手絵本作家はやしますみ氏の二人の創作表現を軸に、元編集者の澤田精一氏を交えて作家の創作に対する考え方の違い、絵本作家の過去、現在、未来について探りました。村上氏の出身地、中津川での「中津川えほんジャンボリー」で二人は出会いました。「自然」を創作テーマの一つとしている村上氏は、地面に這いつくばって生き物を観察し、絵本に展開しているはやし氏の創作活動に興味を持ったそうです。ラウンドテーブルでは、二人に自作絵本をご紹介していただき、それぞれの創作表現の特徴をもとに絵本の捉え方の違いについて掘り下げていきました。
 澤田氏は、過去から現在までの絵本表現の変遷について言及しました。福音館の編集者をされていた頃、「良いテキストがあれば、良い絵本ができる」と福音館の松居氏が話されていたそうです。絵本の世界を過不足なく、情報のすべてを読者に与えて、何が起きているかをきちんとわからせる。それが当時の福音館の絵本作りだったそうです。登壇二人の絵本は、過去のオーソドックスな絵本とは違い、自由に伸びやかに自分のイメージで描いている。つまり主観的に自分の世界を押し出している。最近の絵本はテキスト先行ではなく、作家が絵で語ることができる点が特徴ではないかと指摘しました。
 コーディネーターの和田は、村上氏の絵本表現は、水を感じるためにあえて水を引き算した「枯山水」の世界ではないかと述べました。村上氏の絵本に描かれた川は絶妙に省略されている。故意に何かを仕立てるのではなく、見る者の想像の働きで完成させる「引き算の美」といえる。また「余白」とか「間」など、長谷川等伯の作品のような日本美も同時に感じさせている。一方、はやし氏は画面全体に溢れんばかりに描くことで力強さを際立たせている。いわば画面充填のルネッサンスや印象派のような西洋的な趣である。二人の表現は「引き算と足し算」という表現のアプローチに大きな違いがあるのではないかと問題提起した。

(報告:和田直人)

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