[第20回]絵本学会大会・報告
[第1日目]5月3日(水)
15:45~16:15 研究発表Ⅰ-A 7号館7201教室
座長:浅木尚実、申 明浩
保育者養成校「障害児保育」授業での絵本活用の意義についての一結果を発表した。『さっちゃんのまほうのて』は、「障害児保育」学習のスタート場面において、①登場人物の表情から心情が読み取りやすく、②子どもの生活環境(家庭・地域)のイメージがつかめ、③保育者の援助に関して想像や考察ができるなどの良さがあり、多面的な解釈の力と学びの意欲を育む魅力ある絵本だと学生の読み合いから明らかにした。
学生らの他者との違いを受け入れるしなやかで美しいたおやかな学びの姿が見られた。それは、障害観・子ども観・保育観などが確立した大人たちからの一方向への強い意識付けではない、絵本の読み合いから学ぶ可能性だと捉える。
参加者らにも絵本の読み直しにより、自己の障害観・子ども観・保育観などを再考察する契機となった。
※『さっちゃんのまほうのて』たばたせいいち,先天性四肢障害児父母の会,のべあきこ,しざわさよこ共同制作,偕成社,1985.
20年前に出会った絵本、あの感動をもう一度!―しかけ絵本"ぼく、うまれるよ!"のアンケート、317人にききました!―
本発表の目的は、生命の誕生を伝えるしかけ絵本「ぼく、うまれるよ!」を20年前に聞き取り調査した時に感動でぞくぞく感を体感する人が多数いた事だった。そこで、感動で触覚に作用するこの絵本に興味を持ち20年後の今を知りたくて317名のアンケート調査をした。結果、20~40代の子育て世代と50~70代の熟年世代に感動のぞくぞく感に差があることが分かり、幼い頃よりIT文化に触れているゆとり世代の現状に気がついた。でもその気で、10代の若い世代の「生きる力」の育成に繋げられる「ブックトーク」の一冊に取り入れ好評を得る事が出来た。これからは、おはなし会のプログラムに組み入れ「命」の大切さを伝える絵本として役立て活動していきたい。また、今回の発表でご指摘頂いた事やアドバイスは、是非、今後の研究発表に生かしたいと思います。有難うございました。
本発表では、絵本作家・いわさきちひろが「月間保育絵本」という媒体において描いた図像から、高度成長期の母子のあり方、日本社会で広く理想として共有されていた生活スタイルがどのように表象されたのか、また、それら表象が高度成長の失速に伴い、いかに変遷したかを考察した。同時代の他の作家と比較検討をおこなうことで、いわさきの描く図像には、時代の変化を敏感にとらえつつ、母親たちの関心と共感を集める工夫がなされていたと結論づけた。
しかし、会場からは、(特にいわさきちひろのご子息の松本猛会長から)同時期の画家たちの描いた作品に対する考察が不足している点と、また、編集者と画家との間に生じる力関係の変化についての視点が欠けていることをご指摘頂いた。これらは非常に重要な課題として、今後の研究につなげていきたい。また、他からは月間保育絵本の雑誌名と記事名の記載方法(『』か「」)についてご指摘を頂いたが、この件については統一した記載方法が示されていると混乱がなくなるのではないかと感じた。
Ⅰ-Aグルーフでは、三好伸子の『さっちゃんのまほうのて』を用いた、保育士を目指す学生の自己の障害観・子ども観・保育観等のリサーチ結果が報告されたが、絵本選びの動機や分析と解釈の内容に対する異論が出され、議論になった。
藤井スミ苑は、「命」の大切さを伝える絵本として、仕掛け絵本『ぼく、うまれるよ!』を選び、誕生時の感動をリサーチし、世代間の感じ方の違いを発表した。ただ、「ぞくぞく感」というキーワードが客観論の可否を問われた。宮下美砂子は「月刊保育絵本」の中の作品で、作家いわさきちひろの時代と時代を見つめる視点と表現を語ったが、同時代の他の作家や作品の調査や比較の欠如が指摘された。
全体的に、客観的な視点での研究と分析、よりスマートな発表(発表と後のやり取りを含めた時間管理)の工夫を考えさせられた研究発表だった。