絵本学会

[第20回]絵本学会大会・報告

研究発表報告

[第2日目]5月4日(木)


9301000 研究発表-C 7号館7206教室
        座長:本庄美千代・和田直人


多様な表現領域を持つ「新しい紙媒体」の開発
別府浩実 貞静学園短期大学

 
 開発した紙媒体『ピクカ(Picca)』の開発プロセス・理論・実演についての発表を行った。開発プロセスでは、絵本・紙芝居を主軸に、保育で使われているパネルシアター・ペープサート・デジタル絵本といった5つの媒体の構造と表現法を比較した上で、多様な表現領域を模索したことについて説明した。理論では、ピクカの基本概念「人が経験や個性も含めた上で創造性を発揮し、言葉や声やジェスチャーを使って表現し、人同士のコミュニケーション(思考・感情・感覚の交流)を行うこと」について解説を行った。実演では、ピクカはスタンドに立てて演じること、両面に絵や仕掛を作ることができること、読み手(演者)が移動しパフォーマンスができること等を伝えるために4作品を演じた。


10301100 研究発表-C 7号館7206教室


初山滋の絵本『たべるトンちゃん』について(2)
 出版時期前後の装幀作品および戦後直後の絵本作品との繋がり 
佐々木美和 聖徳大学幼児教育専門学校講師

 
初山滋の絵本『たべるトンちゃん』(金蘭社、1937年)を、前回大会では描線や色ブロック、文章展開など6つの観点よりその表現手法の特徴と機能を分析し、多様な要素が連動して上質なノンセンス作品として昇華していると発表した。今大会では『たべるトンちゃん』を同時期の初山による装丁作品や後続する絵本作品と並べて、その関係性ないし独自性を紹介した。瀬田貞二「初山滋観一斑」(「評伝 初山滋」所収)を下敷きに初山作品の変遷を概観し、1932~37年が最も初山らしい画風が現れた時期であること、『たべるトンちゃん』が当該期に発表されたものであることを確認した。紙面に着物柄のような色版画を施し、表紙と裏表紙に登場物を前後または左右に配置する装丁が『たべるトンちゃん』にも共通する点、戦後直後に発表された絵本『山のもの山のもの』にも、色ブロックや“食べる/食べられる”という物語性が共通する点を発表した。


 別府浩実氏による「多様な表現領域を持つ『新しい紙媒体』の開発」の研究発表であるが、紙媒体『ピクカ(Picca)』の開発プロセス・理論の説明と実演によって発表は行なわれた。「新しい紙媒体の開発について」「5つの媒体の比較」「媒体:3つの構成要素」「開発した新しい紙媒体」「新しい紙媒体作品」「保育現場におけるリサーチ」「新しい紙媒体の名称」「ピクカ(Picca)の考え方と展開」という8つの視点から発表された。
 山本美希氏による「絵と言葉のバランスが偏った場面における絵本表現について」の研究発表は、絵本における「絵と言葉」の関係性は常に一律というわけではないということに焦点を当て、絵本表現の分析を行った。絵本の各種表現をタイプ分けして、その役割を考察し、絵と言葉のバランスが偏った場面は、物語内容と密接に結びつき、多様な役割を担って機能していることを示した。
 佐々木美和氏による「初山滋の絵本『たべるトンちゃん』について(2)-出版時期前後の装幀作品および戦後直後の絵本作品との繋がり-」の研究発表は、初山の後続作品である『ゆびかぞへ ゑほん』『山のもの山のもの』と『たべるトンちゃん』との表現手法の比較、またオルタネーション手法とも言える作者独特の装丁におけるパターンの繰返しにも言及した興味深い発表であった。

(座長報告:本庄美千代・和田直人)

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