[第20回]絵本学会大会・報告
[第2日目]5月4日(木)
9:30~10:00 研究発表Ⅱ-A 7号館7201教室
座長:佐々木宏子・生田美秋
乳幼児向け絵本の言語の特徴の一つであるイコン性の高い表現を認知言語学的な視点で分析考察した結果について発表した。
絵本は、一定のテーマについての時間的空間的な構成を絵画的な要素と言語的な要素との相互作用によって成立する本媒体であるという定義を行い、1960年以降に出版された日本語の「赤ちゃん絵本」の語や文を主な資料とした。
10:00~10:30 研究発表II-A 7号館7201教室
本研究発表は次の6つの章から成る。1.国内における「赤ちゃん絵本」への関心の高まり2.『まんまん ぱっ!』(文:長野麻子、絵:長野ヒデ子、童心社、2016)の制作の動機 3.『まんまん ぱっ!』の内容と構成4.『まんまん ぱっ!』の主題―赤ちゃんの言葉とコミュニケーション― 5.『まんまん ぱっ!』の文と絵の制作 6.赤ちゃん絵本に求められるものとは? 音楽学者でもある著者長野麻子が目に見えない「音」の世界を「絵本」という視覚的媒体によって表現できることに魅力を感じたことから始まった絵本制作であり、なおかつ子育体験から生まれた本作は、赤ちゃんの喃語を中心とした赤ちゃんとのコミュニケーションをテーマにしている。なぜならそこから人間の生活と身体、音楽の根本的な結びつきが見えるのであり、赤ちゃんの身体や内面により一歩踏み込んだ新しいタイプの赤ちゃん絵本を作りたかったからである。本書の制作は乳児をめぐるマザリーズや言語、音楽の研究に基づいており、本発表ではこれらを詳細に説明し、本書の主題を明らかにした。
研究発表Ⅱ-Aでは、3本の発表が行われた。村上さんは、「乳幼児向け絵本における言語のイコン性について」と題して、絵本を独自に定義され、「赤ちゃん絵本」の言葉と絵を資料として提示された。考察の結果として、イコン性の高い言語表現は、身体活動を誘発する要素を備えていると報告され、絵言葉と絵の相関関係を見て、今後の課題を提示された。
金子さんの研究は、「保育技能」(1年次、必修)の年間6回(1回90分)の絵本授業のなかで、いかに生徒に「求められる絵本の読み聞かせ力」を付けさせるかが発表のテーマであった。授業は、毎回生徒10人が自分で選んだ絵本の読み聞かせを行った後で、前期3回は11月の幼稚園実習に合わせて3歳~5歳児向けの絵本を扱い、絵本の持ち方、ページをめくる動作、姿勢、声の出し方などを、後期の3回は2月の保育実習に合わせて0歳~2歳児向けの絵本を扱い、絵本を読む際のねらいの設定、留意点や配慮事項をふまえながら読むことができるよう指導。年間50冊の絵本を読むという課題を設定し、前期、後期の終わりに実技試験を実施していると述べられた。本テーマは、国の保育者養成課程における絵本の位置づけにも問題があり、保育現場で期待される質の高い絵本教育、保育者養成を行うための絵本学会からの問題提起や、養成校での児童文化や保育内容(言葉)との授業連携などが課題となると結ばれた。
長野さんは、赤ちゃん絵本に求められるものとは?― 『まんまん ぱっ!』の制作現場から―」と題して発表された。発表のなかで自作絵本の制作の動機を語られ、また作品を解説し、幼児とのコミュニケーションの実際の様子をDVDを用いて提示してくださった。子育てを通して新しいタイプの絵本作りの試みを紹介された。