絵本学会

[第20回]絵本学会大会・報告

研究発表報告

[第2日目]5月4日(木)


9301000 研究発表-B 7号館7202教室
        座長:石井光恵、永田桂子


赤羽末吉の『あかりの花』と『つるにょうぼう』について
焦 一然 日本女子大学大学院修士課程
 

日本を代表する絵本作家赤羽末吉(1910-90)の二つの作品に注目した。
『あかりの花』(福音館書店.1985)は、赤羽が描いた最後の中国を題材にした作品であり、唯一戦後中国で取材を行った作品でもある。
『つるにょうぼう』(福音館書店.1979)は、赤羽の日本昔話絵本の中においても傑作であり、特に彼が一生愛した「雪国」を存分に描いた渾身な一作である。
この二つの作品を比較すると、物語の流れや登場人物の描き方など内容的な要素から、装丁や場面割など外的な要素まで、類似する部分がとても多い中、違いもたくさんある。服装や道具など外側のものから、心の動きや叙情の表現など裏側のものまで、まるで違う。
この比較を通して、かつて日本と中国で生きていた、違う文化が混ざり合った赤羽末吉の作家性と彼の独特な感受性を追求する。


100010:30 研究発表-B 7号館7202教室


絵本はここからはじまった
 150年前、世界で最初の絵本編集者エドマンド・エヴァンズ登場 
正置友子 絵本学研究所主宰
 

一冊の絵本の制作に直接関わるのは、文を書く人と絵を描く人(この二者は同一人物であることも多い)と編集者である。優れた編集者の存在が、完成度の高い絵本を可能にする。現代でもそうだが、ヴィクトリア時代となると、その存在は一層大きかった。編集者は、画家を見いだし、画家に優れたデザインの絵を描かせ、その絵を彫版し、印刷し、製本する工房を持ち、そして出版社に出させることであった。エヴァンズは、彫版の上でも最高の職人の腕を持ち、さらに、本というものは、ページあるいは見開きが、絵と文字をもっとも美しく見せるデザインの上に成り立っていることを知っていた。さらに、色彩についても、色をどのように配置したら画面が美しいかを研究していた。エヴァンズはヴィクトリア時代きっての彫版師であり、印刷師であり、アートディレクターであり、絵本プロヂューサーであった。要するに、世界で最初の絵本編集者であった。


103011:00 研究発表-B 7号館7202教室


かがくいひろし論
 登場者の関係性と祝祭性を中心に 
鈴木穂波 岡崎女子短期大学

 
かがくいひろしの作品についてはこれまで一冊ずつ取り上げ、「もの」の生命感、「もの」の動きと共感、身体性、子どもと「読み合う」というなどに注目して論じてきた。本発表では、登場者の関係性が、かがくい作品の独自の世界観を生み出していることを整理した。特にコミュニティでのつながりには、祝祭性がみられる。その祝祭性の根底には喜びや原風景の共有があるが、それが絵本と読者との関係性、読み手と聞き手の関係性を作りだすものにもなっている。それが分かりやすく表れている初期作品『うめじいのたんじょうび』と比較すると、後期作品『おふとんかけたら』ではもっと混沌とした分化していない感覚として捉えられ、ここに結実しているのではないかと考えられる。今後は、いただいたご示唆ももとに、かがくい作品において、ひいては絵本というものにおいて、読者の共感を引き出すとはどういう意義をもつのかについて考察を深めていきたい。


「赤羽末吉」の絵本画家論、「エドマンド・エヴァンズ」の絵本編集者論、「かがくいひろし」の絵本作家論と、それぞれ特色のある、内容の濃い発表であった。
焦一然氏の発表は、赤羽の中国大陸(満州)での15年間の生活が絵本作品にどう反映されているかという研究で、『あかりの花』の見返しに苗族誕生の伝統的刺繍模様が採用されたとの指摘は興味深かった。
正置友子氏の発表は、長年の研究の集大成といった内容であった。今後は、我が国の編集者や画家との共通性や異質性などに言及されると、絵本研究の新たな発展が見られるのではないか。
鈴木穗波氏の発表は、かがくい作品の「読み」に焦点をあてた、発表者近年の研究テーマを追求したものである。とくに絵本を子どもと「読み合う」ときの混沌としたカギが、かがくい作品に存在するのではないかと考察する点、さらに深められたい。
以上、いずれも画像を駆使しての丁寧な説明であった。参加者も多く関心の高さが伺えた。大会発表という性格上、質疑応答に十分な時間が割けないのは、やむを得ないが残念であった。

(座長報告:永田 桂子)

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